#07.手塩にかけた創作住居は娘みたいなものだ

基本設計段階から、さまざまな思いが蓄積されていきながら建物は現実化され、完成したときにはまさに自分の分身である様な気持ちにもなる。しかし、そんな感慨にふける間もなく、竣工すると突然自分たちの手を離れていくことになる。

昨日まで当り前のように行き来していた部屋は、ある日を境に黙って入ることが出来なくなる。引渡しをすれば当然なのだが、なんとも不思議な気持ちである。隣の部屋もその隣の部屋も、、、次第に不思議な気持ちはなんともいえないさびしい気持ちに変わってくる。

引渡し直前の誰もいない建物の前に一人でたたずみ、過ごす時間がとても好きだ。今までの工事の喧騒や多く人たちが行き交っていた場面がこの時ばかりは静寂である。その静けさは寂しさと言うより、原寸の模型を前にするがごとき異次元の世界に入り込んだ幻想的なひとときだ。

あちこちの窓には明かりが灯りだし、中には入居者の幸せそうな生活が脳裏に浮かび上がる。冬には冬の室内の暖かさが、薄暗い空を背景に灯がともりだす。
夏には夏の喜びの空気が強い日差しを受け達成感とともに静かに流れる。

雨のときもあった、雨音が静かな伴奏となり穏やかな充足感で僕のまわりは満たされる。不思議とこの時は建築的なことや設計のことは頭に浮かばない。

次の瞬間、シーンは変わって、そこは竣工を控えた現場、あちこちでバタバタと人が駆けずりまわり、チェックや確認に明け暮れる自分がいる。今度は建物あちこちのディテールや仕上げが、次から次へと目の前を通り過ぎる、無心となって完成を見届ける姿がそこにはある。

どこからともなく人の声にふと現実に戻る。

思えば、手書きのラフスケッチに始まり模型を作り、現物ができてくるまでの間、目の前の創作住居は、少しおごった言い方をすればすべてが僕の手中にあった。 思い通りの建物にすべく、いったい何人の人の協力を得たであろうか、何人の人と喧嘩直前の議論をしたか、本当の喧嘩もあった。

僕の手から離れ、独り立ちをしていく建物を前にして急に愛着がこみ上げてくる。これからは入居者の手にゆだねることになる創作住居。 愛着をもって大切にして欲しい。

大事にして貰えよ!
そして入居する人に喜びを与えろよ!
ずっと影で見守っているから安心してがんばれよ!

つい一人でつぶやいてしまう。

代表取締役 伊藤 正

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