#08.設計者の欲が出て大赤字

これだから建築家の設計する家は困るんだとお叱りを受けてしまいそうだが、創作住居の場合、ゼロワンオフィスは実に微妙な立場にある。

求められてもいないのに、ついつい設計者の欲があちこちに顔を出し、工事費が当初予算をオーバーしてしまうのだ。機能的な部分や色などについて入居者の希望を聞きながら決めていくのであるが、基本設計が出来た段階で参加者を募ることもあって、外観や共用部のデザインやコンセプトなどは最終的にゼロワンオフィスで責任を持って決めていくことにさせてもらっている。

インテリアだけよければ良いというものでもないし、集合住宅である以上全体の統一感や町並みとのかかわり、共用部のデザインも非常に大事である。設計事務所主体と謳っている面子もかかっている(笑)。最初から細部まですべてを決めておけばいいのであろうが、なかなか出来るものではない。

基本設計のときから見れば竣工まで1.5年くらいある。工事が着工してからも毎日のように図面や模型を見て、現場に足を運び、入居者の顔を見つつインテリアが進んでいく、それだけの時間まったく当初の設計に対してゆるぎもなく、より良いアイデアが浮かばないはずもないのである。

一方、完璧な図面と言うのもありえなく、現場が進む中での調整も必要となるのだが、そのときにも解決策を考える中で細かい変更は出てくる。問題は二つあり、一つ目は現場は生き物であることだ、しかも巨大だ。日々変化成長を続け、止めることも出来ない。変更するにもゴーサインを 出すにも待ったナシのことが多い。現場で即決を求められることも少なくない。

結果、入居者に対しては事後報告といったことになってしまう。よく言えば、最後の最後まで最善を尽くすとも言えるし(本人はそう考えている)、計画性にかけるともいえる。

二つ目は設計者欲である。

当初の計画通り作ったとしてもそれなりであろうし、問題はない。ただ、より良いものが浮かんだときそれを捨てきれないのだ。設計者の欲と言うより体質かもしれないが、魅力的な建築に対する価値観の問題だ。

いわゆるクレームやその予備軍をつぶすことより、ついついプラスの部分を追ってしまう。いわゆる減点法ではなく、加点法の思考回路なのだ。マイナスゼロでプラスもゼロより、マイナス2でもプラスが3あるほうがよいといった考え方である。

一般的にはなかなかプラスを見てくれないことが多く、マイナス2のほうにばかり 目が向きがちなのは重々承知している。しかし、大きな目で見れば、見えないプラスがゼロワンオフィスたる雰囲気を作り出していることも事実、存在価値だと考えている。

たとえばj-alleyの入り口にある木製の格子扉やアレイの床。M-splitのスクリーン、三茶ハウスの木製デッキや扉、J-patioやT-treppeのエントランス周り....いわゆる顔と言われる部分の多くは竣工間近に設計変更をして創られたものばかりである。

誰でも思いあたる経験はあろうと思うが、最後の最後、後がないとなるとアイデアが出てくるのだ。こればかりは抑えることが出来ない。抑えるには目を向けず、考えることをやめるしかない。知らぬ間に出来上がっていれば良いのだが、現場は必ずひとつひとつ、確認をしてくる。最後にもう一度考える機会を用意してくるのだ。

当然、オーバーした工事費はゼネコンが容赦なく請求してくるが、事後承諾でもあり、入居者には請求も出来なくゼロワンオフィスの自腹となってしまうことも多い。工事費に比べ圧倒的に少ない設計料を削って作ったものは各プロジェクトにある。

これを支えているのは知る人ぞ知る設計事務所の実態、すなわち一般社会人から見れば信じられないほどの薄給と倹約精神である。情けない。多くの有望な若者を預かる身としてはこれに甘んじず、しっかりと利益も確保する体質も作らねば。


代表取締役 伊藤 正

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