#02.結露と外断熱について(2)


~実践的外断熱~
 
前回のコラムで内断熱と外断熱のしくみを調べ、はたしてどれだけの効果と違いがあるかを考えてみた。詳しくは「#01. 結露と外断熱について(1)」を参照していただきたい。
 
窓や凹凸の多い日本の建築物では外側に断熱を隙間なく施すことがいかに難しいか、風土、気候、費用対効果を考え合わせると、外断熱にはまだまだ未知数の部分が多すぎる。
 
では、設計者として今できることはなんだろうか。ゼロワンオフィスが計画する創作住居で行っていることを今回はお話ししよう。
 
◆ 標準仕様について
 
まず断熱が必要とされるところを部位ごとに見ていくことにする。
 
断熱が一番要求されるのは、ご存知のように屋根部分。木造でも小屋裏換気を取ったり、公庫の基準でも一番厳しい条件なのが屋根である(ちなみに公庫では省エネルギー断熱構造工事に関わる木造住宅に繊維系断熱材を施す場合、屋根部分で200~270m/m程度もの厚さを必要としている)。
 
次に断熱性能を要求されるのは、底冷えの言葉があるように地面に対してだ。壁面に対しては、角の部分が熱損失が大きくなるので、重点管理する必要があるだろう。
 
そして一番のヒートロスがあるのは窓となる。
 
構造の違いに関わらず、屋根部分というのは床下同様に、比較的シンプルな形状のことが多い。いくつも窓があるわけでないし、バルコニーがあるわけでもないからだ。木造の場合だと、断熱材の外側に防湿フィルムやアスファルトルーフィングの止水ラインを施し、外部からの湿気をカットする。コスト安かつ施工性の高い繊維系断熱材(グラスウール、ロックウール)を多分に使うことが可能になる。
 
湿気に極度に弱い繊維系でも、止水ラインの内側であれば断熱性能を十分に発揮できる。(具体的な透湿係数は前回コラムの表を参照されたい。繊維系は数値にも置き換えられないほど、湿気に弱いとされている。)
 
では、コンクリート構造の場合はどうだろうか。
 
日本国内においても数多くの実績も実証されている屋根の断熱工法の例が下の断面図である。これらは現在、標準ディテールとして広く一般に採用されている。
 

 

図の外断熱では、止水ラインのアスファルト防水層を断熱材の下に設けてあるため、完全に外側の湿気を断ち切ることは難しい。そのため、比較的湿気に強い発砲プラスチック系の固形断熱材を隙間なく張り巡らすことで、断熱効果を最大限に生かそうとするものである。かつ内側の角部分にも断熱を施しているため、断熱の効果は大きい。
 
この工法であれば外断熱といっても施工性、経済性および安定した性能を確保できるという実績がある。こうした屋上アスファルト防水の外断熱標準ディテールは、何年も前から採用されている。確実で信頼のおける工法であれば、内であろうが外であろうが一般的に取り入れられていくということだ。

◆ ゼロワンオフィスが実施すること
 
実際にゼロワンオフィスが計画する創作住居でも、基本的には上記のように安定した実績がある屋根部分は外断熱を採用する。歩行を前提とした陸屋根には上図と同じ防水処理を行う。
 
一方で勾配のある屋根には、コンクリート躯体の上に20-30mmの断熱を施し、その上にアスファルトルーフィングで防水し、金属屋根の施工を予定している。つまり止水ラインを断熱材の外側にして、上部からの雨水を妨げる。
 
この金属屋根は、効果的な外断熱として施工しやすく、大きな体育館などでも取り入れられている実績ある工法だ。いずれにせよ、創作住居における屋根部分は外断熱を基本としている。
 
さらに、先ほども言ったように、シンプルな形状である最下階の床下に対しても外断熱を行う。
 
創作住居での最下層の床は原則二重床プラス外断熱とし、ピット部の下は基礎となる耐圧盤を打設する。階下がピロティ等の吹きさらしの床の場合においても、外断熱を施す。
 
最も断熱の難しいとされる外壁については、まだ実験段階と言わざるを得ない。費用対効果の点から、今は本採用にはいたっていない。現状は外壁の断熱材として、室内側に現場発砲ウレタンを吹き付け、隙間なく(ここが肝心)内断熱を行っている。今のところ決して特別なことを実施しているわけでないが、現実的にはベストな工法と考える。
 
一般論的に外断熱が理想の断熱とはいえ、ディテールをみるとどうしても不安が解消されきれていない。
 
「理論的にみて内断熱は構造的欠陥である」、と訴える研究者もいるが、たとえ理論上では劣ると分かってはいても、確実な施工をしてこその断熱効果があると考えている。
 
設計という行為は全体のバランスが大切であり、その中で何を優先するかは経済性や地域性などを考慮した上で決めていくものだ。
 
そもそも住宅というものは、風を感じ季節を味わうべきものだった。

高密度な都市に暮らすためには、なるべく大きな開口部を取りたい、室内に外気を取り込みたいとする要望が、窓・べランダを特徴とするコンクリート住宅となっていったのではないだろうか。
 
基本的に外断熱というのは外部をすっぽり覆うことで大きな効果を発揮するため、開口部や凹凸の少ない建築には有効であることは前にも述べたとおり。風通しを良くした住居に住みたいのであれば、外断熱は不向きということになる。
 
とくに南北に長い日本では、地域風土を良く検討した上で、実際にものづくりをする立場から出来得るべきことをやってゆく必要があるだろう。
 
地域によっては、断熱を最優先すべき設計もある。公庫や学会での断熱性能基準でも、日本を5つの地域に分類して構造や工法ごとに断熱材の厚さを規定している。
 
例えば、北海道に対して東京・大阪等都市圏では、繊維系硬質系ともにおよそ半分の厚さの断熱材が適用されている。要は安易に外断熱というムーブメントに言葉だけすぐ乗っかるのは考えものかもしれないということである。そんなに簡単な事ではないからだ。
 
何故、外断熱に対しての否定的な意見が出ないのか、見ないフリをしているのか?わからないが、あえて問題提起をしてみた。
 
欧米の例や環境の一面のみを見れば、外断熱に勝るものはないような錯覚をしがちだが、内断熱の全てを悪とするのはどうだろうか。都市部のコーポラティブハウスでは外壁に外断熱を採用している実例もある。住み手側からの声を是非とも聞きたい。
 
自由設計が可能であるコーポラティブの場合、開口部を比較的大きくとることが多いため、隙間無い断熱をほどこすのは難しい。その中で外断熱を取り入れ、実際に生活している、そうした生の声を今後の技術改良へ反映させられたらと感じる。
 
はてさて、今回2回にわたって断熱と結露について触れてみたが、デザイン、経済性、安全性、環境、これらすべてを考え合わせた上でいかに外断熱を施すことが難しいか、単に欧米の実例を持ってきて、内断熱を結露の病理として環境問題ばかりを訴えている人たちにも理解してもらいたいなと感じる。
 
設計者、ものづくり側の立場から「今」の目線と「これから」の視線で申し上げた次第である。
 
【参考文献】
「日本のマンションにひそむ史上最大のミステーク」赤池学他著
「日経ECO21」2000.1号 日経ホーム出版社、その他外装材メーカーカタログ参照
「内外装材チェックリスト」2000年度版 建築文化臨時増刊号 彰国社
「住宅金融公庫融資住宅 住宅工事共通仕様書」
「建築知識」
 
代表取締役 伊藤 正