#07.常識とは?土地の価値基準が変わる(1)
~間口が狭くて奥行のある土地は、無条件でマイナスの査定?~
繰り返しになるが、私は建築設計の立場であり、不動産に関しては専門外である。そんな私に以前、ある不動産鑑定の組織から「収益還元方式の為の想定建物について」話をして欲しいとの依頼があり、おこがましくも講義をしたことがある。
不動産鑑定士の中でも特に先進的で優秀な方々を前にして、図々しくも不動産鑑定においての常識の矛盾について話したところ、意外な反響があった。
畑が違えば視点も違うのだろう。こちらが普通に考えていることが新鮮だったようだ。
その内容は昨年の暮れの不動産学会での発表にも引用され、その後、その論文集を見て興味を持ったと大阪の鑑定士の方からも資料の請求が来た。
今回は、その土地査定の矛盾ついてお話ししたい。
まず、次に極端な例を示してみよう。
右の敷地Bの様に、間口に対して奥行きが4倍もある形状は、「土地価格鑑定上、一律5%マイナスと見る」といわれる敷地である。近隣商業地域、前面道路も6mと標準的な想定にしている。その左に、同じ面積でも間口が広く、奥行きも16mある恵まれた形状の敷地を想定、比較してみた。
<共通条件>
●用途地域 :近隣商業地域
●敷地面積 :400m2
●容積率 :360%(全面道路:6m)
→延べ床面積:max1440m2
●1フロアー床面積200m2未満に押さえ、階段を1箇所とする。1440m2÷200=7.2→8階建てが想定される。
敷地 A)
道路斜線:(3.5+6+3.5)×1.5=19.5m
→ 6階の途中からセットバックしなければならない
敷地 B)
道路斜線:(5.2+6+5.2)×1.5=22.6m → 8階まで十分建設可能
結果は、恵まれている様に見える左の敷地Aの方が、道路斜線の影響をまともに受けやすいため、ボリューム設計上、大幅に不利になってしまうのである。敷地Aは6階中程からセットバックしなければならず、しかも建物全体が影響を受けてしまう。間口が広い分、影響範囲も広く奥行きが無い分、後退もできない。
一方、右の敷地Bの場合は、建設コストは割高になるが十分ボリュームがとれる。奥行きが十分な為、後退も大きく取れ、道路斜線の影響から逃れることができる。大きく空けたフロントは駐車場としても利用できそうだ。又、各住戸とも、3面開口も可能で独立性も高く、居住性の良い、中庭形式のアイデンティティの高い住戸になりそうだ。
そうなると、家賃もやや高めに設定でき、建設コストを吸収できるのかもしれない。昭和62年の法改正により施行された「後退距離による斜線制限の緩和」の恩恵に最もあやかれるのは、この様な奥行きのある敷地形状だろう。
一般常識では不利と思いがちな土地の形も設計してみると、実は床面積が多く取れ、しかも、より魅力的な建物が建つ可能性がある。床面積が多く取れる方が、当然収益が多くなるのは容易に想像できると思われる。そして、このように想定収益に応じて土地価格を鑑定するのが収益還元方式なのである。
誰でも、これを見れば右の土地Bのほうが高いだろうと思うのではないだろうか? しかし、現実は少なくともBのような土地のほうが安く設定され、さらに、固定資産税も安いと言うのが常識なのだ。
そんなわけで、Bのような土地は、現時点においてとてもお買い得の土地と言えるのではないだろうか?
逆にAの土地価格については疑問を感じないだろうか?
一部の意識の高い、不動産鑑定士や外資系企業の間では収益還元は定着しており、この査定に基づいて、価格交渉を進め、日本人には破格とも思える値段で不動産を購入していることを、ニュースなどで見たことがある人もいるはずだ。
売主としても、説得力のある数字で理論的に示されては納得せざるを得ない。なにせ、今までは周辺ではこの位だったから・・・、の類で価格を決めていたのだから。
このように、土地に対する常識とは長年かかって培われてきたものなのだが、評価方法が変われば、本来変わるものなのだ。ましてや、建築基準法、法律まで変わっていくのである。
残念ながら個人が購入するような土地については、収益還元などまだまだ無縁の世界で、しかも公示価格よりずっと高い値段で取引されている。それでも売れるのだから、やむを得ないだろう。もっと、賢くなりたいものである。
土地についての常識の矛盾はまだまだある。次回は角地についてお話ししたい。これも目からウロコ、は間違いないだろう。お楽しみに。
代表取締役 伊藤 正